VICTORINOX Model Mechanics



私にとって、二つ目となるツールナイフ。
一つ目はWENGERのHiker(ハイカー)。出動は年に一度の野営もどきのキャンプ合宿の時だけだった。
ある年、、台風で身動きが取れずテントの中で、丸二日を過ごしたことがあった。
非常食に持っていっていた、Cレーションをツールナイフで開けてる様は、前線の兵隊さん気分だった。
年に一度のキャンプでしか使わないウエンガーのツールナイフ。
こいつが突然姿を消した。マグライトと一緒に。
忘れもしない、1995年1月17日。そう、阪神淡路大震災の日である。
親友であり、同期のロード選手であるツレが、神奈川から駆けつけてくれた。
事前にかろうじて繋がった電話で、ツレが私に「何が必要だ」と聞いた。
私は「マグライトと、アルカリバッテリーとツールナイフ」と伝えた。
ツレが持っていたのは、ビクトリノックスのメカニックス。今、私がいつも身につけている道具である。
震災の時に、配給されたものの中には、プルトップで無い缶詰が多かった。
風除けのブルーシートを縛るロープの切断にナイフを使った。
気が付けば、震災の時にツレから渡されたシース(皮のナイフケース)に入ったビクトリノックスのツールナイフは
腕時計や、携帯電話と同じように普段から身につけている道具となっていた。
パートタイムの雇われメカにシャンとして、ワールドカップや国内の国際ステージレースに行った際、
幾度となくこのツールナイフを使った。
補給食のドリンクパウダーの開封(数が半端でなく多いので手で開けてられない)には、ハサミ。
補給用の水は、主催者から毎日ダンボールで支給されるので、それの開封にはナイフを。
金の無いプロチームだと、ギャラはキッチリ払ってもらえるが、交換パーツは純正品を使わせてくれない。
安い国産のパーツを切って、やすって、削って合わせて使えと言われる。そんな事、事前に聞いていないので、
ツールボックスにノコもヤスリも入れていなかった。
で、ツールナイフの出番である。
気が付けば、10年以上愛用しているツールナイフ。
さすがにナイフの切れ味も、ブレードのロックもくたびれてきたので、2005年年明け早々に、
ビクトリノックスジャパンに、メンテナンスに出した。相当くたびれていたようで、本国のスイスに送ると言われた。
その間、ツールナイフが無いと困るので、新たに同じビクトリノックスのメカニックスを
シースと共に購入した。
2ヶ月程たったある日、私の携帯に代理店から、修理完了の電話が入った。
丁度、3デイズ熊野でライセンスコントロールの最中だった。大小ブレードの研ぎなおしと、
ロックスプリングの交換で\750円也。
修理から帰ってきたマイビクトリノックス。研ぎなおされたブレードは、やや砥ぎべりしていた。
大小ブレードの砥ぎ目は、それぞれ角度を変えて研いである。
小ブレードは、カミソリのような切れ味に戻っていた。手の甲の毛が剃れる切れ味。
大ブレードは、大雑把な使い方をしても、刃先にシャープナーを軽くかけるだけで
長く切れ味を保てるように研いである。
私のツールナイフのこだわりは、ワインのコルク抜きがついていないことだ。
メカニシャンは、悠長にワインのコルクをあけている暇など無いのである。
コルク抜きより、よく切れるノコやヤスリやリーマーのないツールナイフなど、現場のメカニックには、不要だ。
また、ワインはとても繊細な飲み物なのでろくな温度管理も出来ない、現場で飲むものではない。
飲むなら、一流のソムリエにコルクを抜いてもらって飲むものだ。
もう帰国したが、友人にスペイン人のソムリエがいた。
芦屋、西宮界隈でナンバーワンのソムリエだった。
そいつと飲みに行くと、どこの店のソムリエも緊張し、一ケースの中の一本だけを選別して、出してくれた。
彼曰く、美味いワインは一ケースの中に一本か二本しかないそうだ。
彼と行くと飛び切り美味いワインが飲めたのは、いいのだかいつも支払い金額を見て悪酔いしていた。