まだ、NRSとして屋号をあげていない平成バブル末期。
広告代理店で働いている友人から、ショウケースで人目を引くバイクを創ってくれと頼まれた。
クライアントからは、\120万円の予算を貰っているとのことだった。
広告代理店の友人からの指定は、マンタと呼ばれた前年のツールドフランスプロローグTTで、
ティエリーマリーが区間優勝した時に使っていたDHバーが一体となった、カーボンコンポジットの
TTバーを使用してくれとのことだった。後は、全てはしもとに任せると言われた。
まず、指定パーツの入手にかかった。
カーボンコンポジットのTTバーは、サイクルスポーツのオールカタログに掲載はされていたが、
その代理店に問い合わせると、掲載のみで販売はしていないと言われた。
この時点で、全てはしもとの判断で、\120万にふさわしいバイクを創らなければならない事になった。
クライアントの納得するコンセプトを考え、バイクのパーツコーディネートに取り掛かった。
バイクのコンセプトは、ハワイアイアンマンで使用する事に特化した。
コナウインドと呼ばれる横風の中、緩やかなアップダウンの180キロの直線を高速で走るバイク。
フレームは、斬新なデザインで、少量生産がはじまったばかりだったが、比較的容易に入手できた。
フレームは、シートチューブレスのカーボンモノコックフレーム、ケストレル500SCI.。
剛性より、空力とコナウインドに対して、有利なシートチューブレスなので、チョイスした。
ホイールも同じ理由で、コリマバトンを。
シフトは、正式には単品販売されていなかった
電制シフティングシステムのZMSをチョイスした。
ブレーキは、BMWのブレーキを製造している
ドイツのマグラ油圧キャリパーを。
この電制シフトと油圧式ブレーキ。そして、斬新なデザインのバイクのフォルム。
一発で、制作進行のサインが出た。
シートチューブレスカーボンモノコックフレーム、バトンホイール、電制シフト、油圧ブレーキ。
当時、この構成のバイクは、日本には存在しなかった。
ただ、組み付けて飾るだけのコンセプトバイクではなく、TTバイクとして実戦使用できることにこだわった。
ZMSは、ドロップハンドルのエンドにコントロールユニットを収めるようにできていた。
しかし、TTバーではユニットが収まるスペースがなかった。
DHポジションとノーマルポジション(ブレーキの握れる位置)にZMSのスイッチを配置しなければならなかった。
ZMSのスイッチのコードの長さは、ドロップハンドルでの使用にあわせてある。
コントロールユニットもスイッチもそのままでは、使えなかった。
ひとまず、油圧ブレーキのオイルラインに取り掛かることにした。
しかし、油圧制御で使うブレーキフルードの扱いになれていなかったので、自動車のメカニックの友人に
手伝ってもらった。
オイルラインのエア抜きや、頃合は車とほとんど変わらなかったようで、物の数分で油圧ブレーキが
セットアップできた。
その時に、友人の車のメカニックにZMSのことを相談した。
その友人が、フレームのBB裏の穴を指差して「ここに入れれば」と言った。
私は、躊躇せずZMSの制御コードを切断した。
コントロールユニットを削り、BB裏の穴に収められるようにできた。
問題は、スイッチのコードである。
コードと言っても電気信号を伝えるための、超細い同軸ケーブルだった。
よって、半田付けなどできないのである
考えたあげく、違法無線機を売っているお店に相談してみた。
すると、ZMSのような細さの同軸ケーブルの扱いを教えてくれた。
DHポジションと、ノーマルポジションにシフトスイッチをセットして、コントロールユニットは、BB裏に収めた。
スイッチとユニットを繋ぐコードは、ダブルレバー台座に穴をあけてそこからモノコックフレーム内に通し
BB裏に収めたコントロールユニットに繋いだ。
コントロールユニットは、シリコンコーキングで固定した。
制作期間は、約1週間だったと記憶している。
完成後、六甲山に行った。
途中12パーセントの坂では、流石にフレームはウイップしまくったが、登坂性能自体は、悪くなかった。
フレームは、しなりながらもリズミカルに登る事が出来た。
山頂から表六甲有料道路までは、やや下りなら小刻みなアップダウンとコーナーが続く。
そこでZMSと油圧ブレーキは、まさに“快感”と言える走りを感じさせてくれた。
納品後、皆生トライアスロンに2回、このバイクは実走しているがライダーからも、
「バイクセッションだけは、ダントツでとても気持ちよく走れた」と言われた。
ちなみに\120万円は、あくまで広告代理店がクライアントから貰う金額であって、私の懐には、
もう一桁減らした金額しか入ってませんので。
このバイクを創った3年後に何処かのトライアスロンショップが、油圧ブレーキ以外同じ構成、組付けで
カタログ雑誌に取材されていました。
テストライドで登った六甲山のダウンヒル。
いつも
最高速テストをするポイントでの計測値は、時速80キロを僅かに超えただけでした。
その時点での最高速は、時速82キロ。
数年後、ロードレーサーにMAVIC GEL280 で組んだ決戦用ホイールの慣らしで下った時に
未だ破られぬ最高速値、時速86キロを記録しました。
考えられるに、最高速に達するまでには加速が必要であり、その状態においては慣性モーメントの絶対的な
法則が働いているためだと考えられます。
また、26inホイールは27inホイールと比べて転がり抵抗が大きい。
さらにコリマのバトンホイールは、案外と空力的にはいけていない可能性が考えられます。
だって、速度を上げるとビュンビュンと空気が脈動しているような音が出るんです。
これって、タービュランス(乱気流)が発生しているためだと思われます。
このあたりは、 ロードバイクを考察 で取り上げたいと思います。
